北浜、難波橋の東側に広がる『中之島バラ園』は、オフィス街の中にありながら、いつも私たちの心を和ませてくれる憩いのスポットです。
高層ビルを背景に、シーズンになれば色とりどりのバラが咲き誇り、その鮮やかな景観に多くの人たちが心奪われます。
今回は、約10年前に行われたバラ園のリニューアルの際に、新しいバラ園のコンセプトを構想された日本有数のバラのスペシャリスト、小山内健(おさない けん)さんに、中之島バラ園に込められた想いをおたずねしました。
リニューアル前のバラ園で、アドバイスや技術指導を行う
バラ園は約10年前にリニューアルし、現在の姿になりましたが、小山内さんがリニューアルに関わるようになった経緯をお聞きしました。
以前のバラ園ができたのが昭和30年代で、年数の経ったバラが多く、なかなか美しい姿を保つのが難しくなっていました。
その状況の中で、どうしたらこの地で力強く育てられるか、といったことを考えながら管理指導していました」
当時の中之島バラ園は、どのような状況だったのでしょうか。
「実はバラにも流行があって、昭和30~40年代に植えられたバラとなると、どうしても時代遅れになるのも出てきます。
また、バラも老化しますし、そもそも中之島は低地ぎみで浸水しやすく、植物にとって重要な土を良い状態に保つにはバラにとってあまり良い環境とはいえませんでした。
そこで環境面の改善も含めて、バラ園のリニューアルに取り組みました」
バラの歴史をめぐり、バラの未来を見つめる場に
新しいバラ園に作り替えるにあたり、小山内さんは「バラの歩んできた道、歴史を感じられるバラ園にしたい」と考えていたそうです。
「これからの新しいバラ園を作るのですから、21世紀に向けて流行のものを取り入れたいという思いはあったのですが、
すでに咲いているバラを蔑ろにする事はできません。
そこで思いついたのが、バラの「歴史」「歩んできた変遷」を見る人達に感じてもらえるバラ園にするということでした。
これはリニューアルに携わった当社のメンバーみんなが考えていた事だったのです」
具体的には、どのような手法をとられたのでしょうか。
「今から150年ぐらい前に、世界中が認める四季咲きの大輪バラが誕生しました。
バラの色、形、大きさにはその誕生年のバラの流行があり、時代ごとの違いがあります。
そこでバラ園の真ん中のブロックは、はじまりに一年中花を楽しめる四季咲きのバラを植え、10年ごとにバラの進化をたどって行けるようにしたのです。
難波橋から階段を下りた一番手前が、150年程前の品種。そこから天神橋に向かって現在の品種を植えるよう植栽されています。
途中に『ばらぞの橋』という小橋があるのですが、その橋の向こうがだいたい、21世紀に誕生したバラとなるわけです」
小山内さんにお聞きするまで気付きませんでしたが、確かに足元を見れば年代が記された銘板が埋められていました。
中之島バラ園は、単にたくさんのバラが楽しめるだけでなく、時代によって変わるバラの年表を辿れる場所だったのです。
そういった中之島バラ園ならではのお話を、もっともっとたくさん教えてください。
「以前は、バラが美しく咲き誇る5月と10月、年に1、2回、鑑賞に来られた方にガイドをしていました。
しかし新型コロナの影響もあり、現在は中断しています。皆さんの生活が元通りになり、バラ園に来ていただけるようになった際にはバラのガイドを再開したいと思っています」
大都市の真ん中で、バラが健やかに育つ環境を追求
中之島で美しいバラ園を作るにあたり、もうひとつ注力されたのがバラの育成環境の改善でした。
「以前の中之島バラ園は土地が低い影響もあり、台風などが来れば水に浸かっていたのです。
ビル風も強くて、しかも夏はヒートアイランドとなるので、バラにとっては厳しい環境です。
そこで庭園の設計の人達と相談し、川に近いところに盛り土をし、川の水や風からバラを守るように工夫しました」
この他にも、全面に芝生を引きバラの根を熱から守るようにするなど、さまざまな工夫を施されています。
また、この中之島を中心とした都市緑化整備事業に小山内さんが属する京阪園芸株式会社が携わり、
その功績により『2012年土木学会デザイン賞最優秀賞』が贈られました。
「中之島バラ園は、大都市の真ん中にあるバラ園としては、唯一無二といえる、とても整備された美しいバラ園だと思います。
東京にもバラ園はいくつもありますが、東京から来た人を中之島に連れてくると、『都市の高層ビルや高速道路の風景と、色とりどりのバラが見事に咲き誇り溶け込んでいる』ってとてもびっくりしています。
それが中之島バラ園の特長だと思っています。それほど中之島のバラ園って、凄いんですよ。大阪の宝というか、誇っていいのではないかと思います。
まさに都会の中のオアシス、憩いの場所なんです。しかも無料で楽しめるんですよ(笑)」