中之島フェスティバルタワーや、中之島三井ビルディング、中之島ダイビル、関電ビルディングなどの高層ビルが並び立つ中之島。
そんな中、土佐堀川に面して味わい深いひとつのビルがあります。
その名は「リバーサイドビルディング」。
築約55年、登録有形文化財にも指定されたこのビルのオーナーが、
桐生幸之介(きりう こうのすけ)さんです。
中之島生まれの中之島育ち、生粋の中之島っ子であるとともに不動産関係の会社を経営されている桐生さんに、かつての中之島や未来への展望を語っていただきました。
法医学者だったお父さまの関係で、中之島がふるさとに
桐生さんと中之島のかかわりは、お父さま、お母さまの時代にさかのぼります。当時のお話をお聞きしました。
「父が医者でした。法医学者で司法解剖もしており、解剖が必要な遺体は、だいたい中之島の阪大医学部に運ばれてくるのですが、その度に父に呼び出しがかかる。それでいっそのこと阪大の近くに来た方がいいということになって、今リバーサイドビルのあるところに家を建てました」
その後、桐生家では自宅の一階でグリルを開店することになりました。
「当時、中之島にあった新大阪ホテル(リーガロイヤルホテルの前身)がGHQに接収されており、洋食などを軽く楽しむお店が、この近所にありませんでした。両親の親戚には財界関係者が多く、彼らから『せっかく中之島に居るのなら、みんなが集まれる場所を提供してよ』という話になって、母が新大阪ホテルのシェフを呼んでグリルを開いたのです」
グリルがクラブに発展し、やがて異業種マッチングの場に
グリル・リバーサイドには実に多彩なお客さまがお越しになったそうです。そして、そこが一種の異業種交流の場になったのだとか。
「財界関係の親戚の紹介で、政治家や役人、芸能人、スポーツ選手、作家なども来ていましたね。そうなってくると『お酒も出して』となり、だんだんクラブへと変わっていったんですね。しかしクラブといっても、月々に来た回数、来た人数で料金を頭割りしており、そんなにお金が掛からないので、若い友人を大勢連れてこられるお客さまも多かったです」
クラブに発展したことで、思わぬ副産物があったといいます。
「母はお酒が飲めなかったのですが、人と人をうまくコーディネートできる人だったんです。今でいうマッチングですね。異業種の人同士をめぐり合わせて、みなさんお酒を飲んで和やかに話をしていました」
クラブ・リバーサイドに集う人たちが、リラックスした会話の中で、大阪や世の中を動かすヒントを手に入れたのかもしれませんね。
まちづくりは「人集め」。集客を考えていくことが必要
桐生さんが小さなころの中之島の様子を伺ってみました。
「大阪大学があって、学生さんがたくさんいたので活気はありました。大学って大きな集客装置なんですよ。そして学生さんを相手にする個人商店も多かった。当時は商店街があったんですよ」
さらに桐生さんは、町に人が集まることの重要性を説きます。
「町は人が居てはじめて成り立ちます。まちづくりは人集め、人づくりだといえますね。つまり、企業の本社や拠点を誘致することも、一種の集客なんです」
人集めという点では、近年、中之島で暮らす家庭も増え、小中一貫校も設立されます。町会長も務める桐生さんとしては、どうお思いでしょうか。
「小中一貫校ができるのは、喜ばしいです。でも幼稚園、保育園がまだない。となると、小さい子どもがいる共働きのご家庭は、中之島に住めないということになりますからね。こういう点をもっと我々も考えていかねばならないと思います。同じようなことが外国人にもいえます。外国の方に大阪で暮らし、仕事をしてもらいたいけど、大阪には外国の方が暮らせるインフラが不十分なんです。それでみんな、神戸の方に行ってしまう。どうしたら人が集まれるのかを、みんなでもっと考えていく必要があります」
桐生さんは、街の魅力として都市景観も重要視されている。
「ヨーロッパのある町では屋根や壁の色はもちろん、
カーテンの色や柄などまでも合わしていました。
そこまで景観維持の考え方が徹底しています」(桐生さん)
ヨーロッパでの体験が、桐生さんの「まちづくり」のベースに
「まちづくりは人集め」とおっしゃる桐生さんに、その発想の原点を教えていただきました。
「学生の頃、ヨーロッパを旅していたんです。イタリアであるご家庭に泊めていただいた時に、一生懸命、自分たちの町のことを話されていました。
ロクに英語もわからない日本人相手に(笑)。自分の住んでいる土地を愛していて、そこに遠い日本から来てくれたことを、すごく感謝してくれるんですよ。あれこそ『おもてなし』の心ですよね。また行きたくなります。それが『ヨーロッパに世界中の人々を集める』ことにもつながっているんです」
自分の町を愛するということは、その土地の文化や伝統を大切にしていくこと。桐生さんは、そのことをお仕事でも実践されています。
「私がやっている不動産の会社では、大大阪時代に建てられた建築の保存、活用や古民家再生にいち早く取り組みました。それも日本古来より受け継いだ素晴らしい建築物を、今ある価値をそのままに、現在の暮らしに合うように生かしていきたいと考えたからです」
未来に進むために、古き良きものを活かすこと。それが桐生さんがヨーロッパ旅行から学ばれたことなのかもしれません。
お母さまの心を受け継ぎ、令和時代の異業種交流も進める
町内会長であり、不動産会社の社長でもあり、さらに生粋の中之島っ子である桐生さんにとって、これから中之島という町はどうなっていくのでしょうか。未来への展望をお聞きしてきました。
「リバーサイドビルディングでは、会計士さんが借室をリノベしてコワークスペースを運営されています。セカンドネームに「クラブ・リバーサイト」を使っていただいております。ここにはさまざまな業種に属する若い人たちが集まっており、新しい何かが生まれるかもしれません。母が昔、クラブ・リバーサイドでやったことを、コワークスペースでやっていただいているんですね。このように、我々も市民レベルで人が再び集まって活気が出るような仕掛けを考えなければなりません」
小中一貫校の設立でもわかる通り、中之島には子どもたちも増えているようです。それに対して桐生さんは・・・
「子どもたちに喜んでもらえるようなイベントもやっていますよ。「春のお花見」「バス旅行」「観月会」「おもちつき」、それと「精霊流し」です。精霊流しは京都にも奈良にもない。水都大阪に伝わる伝統文化です。今年はコロナでできませんでしたが、来年、やりますよ!」
そう熱い言葉で語られた桐生さん、中之島をぐいぐい引っ張っていく、力強いリーダーでした。
(写真★は、桐生幸之介さん提供)
リバーサイドビルディング | |
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住所 | 〒540-0002 大阪市北区中之島3-1-8 |
電話 | 06-6441-3559(きりう不動産信託株式会社) |
アクセス | 〇地下鉄四ツ橋線肥後橋駅下車 徒歩5分 〇京阪中之島線渡辺橋駅下車 徒歩5分 |
ホームページ |
きりう不動産信託株式会社 リバーサイドハウジング |