※画像提供:大林組
旧ダイビル本館にはじめて足を踏み入れたのは、いまから約10年ほど前のこと。歴史の息遣いが聞こえてきそうな佇まいと、その重厚な美しさに一目で魅了されました。歩くとコツコツと心地のいい靴音が響くタイル敷の床、ひっそりと営業しているお花屋さんや理髪店、小さな郵便局・・・すべてが古めかしく、時が止まったかのような空間に、ノスタルジーをかきたてられたものです。建築についてまったく知識などなくても、その価値を肌で感じることができました。
やがてこの美しい建物は、その古さゆえ、取り壊されることになったのですが、別れを惜しむ多くの人の想いが伝わり、このたび、「復元」という形で再建されました。
旧ダイビル本館の意匠が残された外観はあの頃と変わらず趣きがあり、中高層部ができたことで背丈が伸びた様(さま)は、まるで昔気になっていた人が、過去の面影をそのままに、より素敵になって現れたかのよう・・・感動的な再会に胸がときめきました。
「復元」には、まず旧ダイビル本館で使われていた古い材料が現代の建築基準を満たしているかどうか調べることからはじめられました。煉瓦やテラコッタの状態を確認しながらの解体作業は、約8か月かかったそうです。解体では、約18万個の煉瓦を手作業で1つ1つ取り外しており、北面・西面の煉瓦の95%以上は旧ビルの煉瓦を再利用したものです。
東面の煉瓦は新しいものですが、古い煉瓦との違和感が出ないように、再利用できなかった煉瓦を粉にして混ぜたり何度も焼き直しをしたりと試行錯誤しながら焼かれたそうです。
北側部分に設置されたテラス席は、ヨーロッパのカフェを彷彿させる優雅な雰囲気を醸し出しています。
そして新たに加わった中・高層部は、すっきりとしたデザインで主張しすぎず、低層部を引き立て、建物全体としてのバランスをとるとともに、「関電ビルディング」「中之島ダイビル」との街区全体の調和も図っています。
館内は、ダイビルってこんなに広かったけ?と思うほど、明るく、開放的な空間に生まれ変わっていました。バラエティ豊かな飲食店、そして近代的なオフィスエリア。
でも、上を見上げると吹き抜けの手すりのレリーフに旧ビルと同じものが使われていたり、レトロな郵便ポストがそのまま残されていたりと、旧ダイビルを知る人にとっては心くすぐられるディティールが散りばめられています。
また、4階のカフェテリア(一般利用可能)にも、旧ダイビルの煉瓦とタイルが使用されています。あの煉瓦を屋内で見ることになるとは思いもよりませんでした。
そして今回の復元でもっとも注目されたのが、ダイビルの歴史をつづる「ダイビルサロン“1923”」のオープン。「ダイビルサロン“1923”」は、かつてダイビルの最上階の西半分にあった、在館者のための社交場「大ビル倶楽部」の雰囲気を再現したスペース。保存されていた扉や棚などを修復・再利用し、当時の雰囲気を再現する装飾品が設けてあり、中之島の歴史を紹介する大型タッチパネル「ダイビルアーカイブス」を設置しています。日本経済を作り上げてきたビジネスマン達を偲びながら思索に耽ることのできる貴重な空間です。
サロンの入口には、大阪大学教授 故 宮本又次先生の1つのメッセージが掲げてあります。