そんな小さな書店で本に囲まれてちょこんと座っているのが、店主である坂上友紀さん。他の書店にはない独特の存在感を愛する熱烈なファンが多く、今や遠くは東京や広島からわざわざやって来るお客さまもあるとか。
「本は人生のおやつです!! 」(以下、略して『本おや』)。その魅力を、坂上さんにお伺いしてみました。
「20代の後半になって、『一番好きなことを死ぬまで一生懸命やりたい』と思うようになって、一番好きな事って何かと考えた時に、『やっぱり本』と思ったんです」。
やがて正社員を募集していた書店を見つけ応募。採用されたのですが・・・
「この書店では、1冊たりとも自分の意思で本を選べないのです。毎月毎月、売る本や置く場所まで指定されていたんです」と、坂上さんは辛そうに話されます。その店でキャリアを積み、決定権を持つまで我慢しようかと思った坂上さんでしたが、「人間、いつ死ぬかわからないと思って、3カ月で辞めました」。
ちなみに、店名である「本は人生のおやつです!!」とは?
「27歳の頃から、本って人生の『おやつ』だなと思っていました。人生にとっての主食、つまり一番大事なものは、やはり『人』であって欲しい。でも『おやつ』って美味しいでしょう?(笑)食べると幸せな気持ちになるし、人生を豊かにしてくれますよね。私にとってはそんな存在で、そのまま店名にしてしまいました」(坂上さん)
取次店と契約する際には、保証金が求められるそうです。
「うちの規模では1千万円ほどかかると言われ、そんなの無理です」(坂上さん)というわけで、「本おや」では、出版社から直接、書籍を買い取る方法にしました。
自分が自信をもって良いと思った本を広めたい、伝えたいと思っていた坂上さんにとって、直取引は全く問題がなかったそうですが、利益率や量的なことで、それだけでは店が成り立ちません。友達は「古本は?」と言ってくれたのですが修行もしていないのに無理だろう、と思っていたのですが・・・。
オープン前に話を聞かせてもらったある古本屋さんが「古本も扱ってみたら?」とおっしゃってくださり「修行しなくても、売ってくださるお客さまと買ってくださるお客さまが満足したらそれでいいんだよ」と言われて踏ん切りがつき、古本も扱うことになったそうです。
現在では古本が7割、新刊が3割ぐらいの比率になっています。
「古本の取扱いを始めて、いろんな方と知り合いました。94歳まで古書店を営んでおられた方とか・・・。『買い取ります』と言っているのに、『お金はいらない。本をお金に換えたくない』とか『これはすごく良い本で、たくさんの人に読んでもらって後世に残さないといけない』と言う方とか、『この本を、いろんな人に勧めたい』と定期的に同じ本ばかり売りに来る方とか。本好きって、本当に魅力的な人ばかりですよ」と、坂上さんは古本を扱うことの面白さ、奥深さをしみじみと話していました。
「ある読書家の方が、ご自分の趣味でやられていたんです。その本の印象で布地を選んで、きれいに装丁されるんですよ」と言いながら、坂上さんは本を手に取りました。それぞれ異なった布地で美しく装丁された文庫本は、まさに世界でひとつだけのもの。たまたま坂上さんが、その方から装丁された本を借り、店で読んでいたところ、お客さまから「それ、売ってるの?」と聞かれたそうです。
そこで作った方に「売ってと言われたよ」と話したところ「じゃぁ、作ろうか?」となったそうです。でもマイルールがあって、同じ本は作らないとか。
「それが一期一会の出会いがあると、お客さまにも好評なんです。中身を見ずに、装丁だけで買われる方もいますね。ジャケ買いですね(笑)」
このオリジナル装丁文庫本のように、「本おや」 に置かれている雑貨は、お客さまの「こんなのが欲しい」「読書の時に、あんなのがあればいいのに」という声から生まれたものがほとんど。根底に流れているのが、店主とお客さま相互が強く持っている『本への愛情』ではないでしょうか。
「当初は、読書家の人が多かったんです。『自分では選ばないような本を選んで欲しい』って。でも最近は、雑誌などで紹介された影響からか、『今まで本など読んだことがない。何から読めばいいの?』と言って来られる方も多いですね」と、読書をする人が増えていくことに、坂上さんも喜びを感じているようです。
「オフィス街のビルの2階なので、ふらりと立ち寄るお客さまは少なくて、わざわざ足を運んでくださる方の方が多い」という坂上さん。
たしかに「本おや」なら、多少、時間がかかっても足を運び、膨大な数の書籍や雑貨をながめながら、たまに坂上さんとお話しをし、じっくり時間をかけてその時の自分に合った本を選ぶのもいいかもしれません。あなたも、お気に入りの一冊を、このお店で見つけてみませんか?
以下は、移転前の情報です。
●土・祝 11:00~18:00
○京阪中之島線渡辺橋駅下車 徒歩約7分