フレンチの名匠が追い求めた理想のパンが、ここに。
「パンカラト ブーランジェリーカフェ」

『ミシュランガイド』で12年連続星を獲得したフレンチの名店、「リュミエール」。そのオーナーシェフである唐渡 泰(からと やすし)氏が、長年にわたるパンへの想いをかなえ、北浜にオープンさせたのが「パンカラト ブーランジェリーカフェ」です。

美味しさと健康を両立したパンが、今、大きな注目を集めています。パンにかけた唐渡シェフのお話を伺ってきました。



オーナーシェフの唐渡泰氏。
数々の名店で修行した後、2006年に心斎橋に『リュミエール』を開店。
その後、レストラン、カフェ、ティーサロンなど8店舗を経営。
2021年1月9店舗目となる『ビストロカラト』を開業予定
著書『野菜の美食』では大きな話題に。★



大阪証券取引所ビルのすぐ南隣にあるホテルの1階が店舗。美味しそうなパンが並ぶショーケースが見える。店舗左手奥に、カウンター席やテーブル席があり、イートイン(17席)できる。

■塩分を1.8%以下に抑えた、身体にやさしいパンを作りたい


-唐渡シェフが目指されたパンは、どのようなものでしょうか。

「『小麦粉のマジック』ってご存じですか? 小麦粉は塩味を隠すので、塩分濃度ほど塩辛さを感じさせないんですよ。つまりパンには、想像以上に塩が入っているのです。大体料理の倍の塩分濃度です。
その上、当然料理にも塩を使いますので、
海外のパンを主食にする国では、
摂取する塩分量が増えます。日本のパンの塩分はだいたい小麦粉に対して2%ですが、フランスでは法律で塩分を1.8%以下にするように決められているほどです」


-確かに健康にはよくないですが、塩味が効いていると美味しいですよね。

「私としては美味しいからといって身体に負担をかけるものは、お出ししたくなかった。だから以前はパートナーのブーランジェリーさんに、かなり無理をいって特別に作っていただいていました。でも、自身のレストランやカフェで提供する際は、自分が求めているパンを自力で焼きたい。『パンの拠点』が欲しかったんです。
今、このブーランジェリーカフェでお出しするパンは1.8%以下、『リュミエール』でお出しするパンは0.8%程度と、私が理想とする塩分を抑えたパンがご提供できるようになりました」


-納得の味と塩分のパンを得るための、『パンの拠点』ですね?

「小麦粉の香りがしっかりするパンが欲しかったんです。レストランでも、作ろうと思えば作れたのですが、それは労働環境的にもしたくなかった。ここは店舗面積の2/3を、厨房として使っています。今は昔のように早朝から深夜まで作業する代わりに、さまざまな機械を入れることで、自動で発酵や熟成をコントロールして省力化できるようになったのも大きいですね」


-塩分を抑えることで、美味しさではどんな点に注力されましたか。

「塩で美味しく感じさせる味を、しっかりした発酵時間や、別のもので作り出さねばなりません。それには『野菜』も使います。私の料理は『野菜の美食』をテーマにしているのですが、その想いをパンにも応用しいろんな技法を使い、野菜のうまみで美味しいパンを作る挑戦をしてます。スペシャリテ『野菜の美・食パン』で使用するバターは大豆が原材料です。」


店舗の2/3を占める厨房には、最新鋭のマシンが並ぶ。これらをフル活用することで、省力化を図りながら、唐渡シェフが目指す美味しいパンを作っている。


厨房でスタッフの労をねぎらう唐渡シェフ。この和気あいあいとした雰囲気と抜群のチームワークが、美味しいパンを作る秘訣なのかもしれない。


入ってすぐのところにあるショーケース。どれを見ても美味しそう! 唐渡シェフが考案した珠玉のパン。ベーシックなパンから総菜パン、スイーツ系のパンまで、バラエティに富んでいます。


お店の奥にあるテーブル席。落ち着いた内装とインテリアで、美味しいパンや料理、ドリンクを楽しみながら、ゆっくりとした時間が過ごせそう。

■植物性の大豆バターを使った人気のスペシャリテ「野菜の美・食パン」


-店舗の2/3が厨房スペースとのことですが、確かに厨房が広いですね。

「もともとが、『パンを作る』ための場所です。ただ、せっかく焼き立てのパンがあるのだから、お客さまにすぐに召し上がっていただきたいと思い、テイクアウトやイートインができるようにしました。。そうなると『飲み物も必要だな』『モーニングやランチも需要がある』『お酒もいいんじゃないかな』…と、こんな感じになったんですね」


-パンと多彩な野菜、食材を使った豪華なメニューですが、価格を見てビックリです。

「9店舗ある『リュミエール・グループ』だから、クオリティの高い食材をまとめて仕入れられるメリットがります。野菜なら、スーパーには卸していない産地直送のものを仕入れています。カフェ単独の経営なら、とても採算は合わないでしょうね。この価格で、これだけの野菜は無理です」



人気の高い「クロワッサンサンドイッチ」。
香り高い発酵バターを使った逸品。
具材もたっぷりでこれ一つでお腹は大満足。★



「牛フィレ肉のビフカツサンドイッチ」。
思わず「美味しい~」と声が出てしまうほど柔らかくてジューシーな牛肉。最高のカツサンドと感じていただけるのでは★


-塩分以外にも、健康に配慮しているものはありますか?

「みなさまから高い人気をいただいている『野菜の美・食パン』には、動物性ではなく植物性の大豆バターを使っています。このパンをベースに小松菜を練り込んだタイプや、カボチャとくるみのパンなどにアレンジしています」



大好評「野菜の美・食パン」。塩を抑え、「大豆バタ」ーを使った、ヘルシーなパン。右がプレーン。左が小松葉を練り込んだマーブルタイプ。★



唐渡シェフのこだわりが伺える「野菜の美・食パン」のPOP。


-一番重要とされているのは、やはり「健康的」ということですか?

「ヘルシーだけを求めるなら、キュウリをかじっておけばいいでしょうが、キュウリをかじるレストランなんて誰も行きませんよね(笑)。飲食店としては、まず第一に美味しくなくてはならない。しかし『美味しさ』だけを安易に求めるのではなく、健康を追求しながら美味しくする、そんな戦いをずっとやっているんです」


「農園直送野菜たっぷりのモーニング」。ソースを加えると、約30種類の野菜が使われているそう。これぞ野菜の美食! 朝から元気が湧いてくる! ★


「龍の卵とジャージー牛乳のプリン&クロワッサンセット」。プリンは濃厚なのにお腹にもたれず、パンで満腹になった後でも、ペロリと食べられる。★

■選ばれる、街の自慢になれる、そんな「パン屋さん」を目指したい


-ブーランジェリーカフェを中之島界隈となる、北浜に開かれた理由は何でしょうか?

「私は、天神橋南詰にあった『辻学園調理製菓専門学校』、現在の「ル・ポンド・シェル」さんが入っている建物ですが、そこが母校なんです。だから大阪に来てから40年、中之島の風景にすっかり馴染んでいるんです」


-中之島は学生だった頃と、変わりましたか。

「昔は川の水も汚かったんですよ。それが行政やいろんな方々の働きで、川がきれいになり、川べりが整備されたりして、今のような素晴らしい場所になりました」


-人口も増えている中之島周辺ですが、その中で、ここをどんな店にしたいですか?

「ぶらりと来て、立ち寄ってもらえる店になりたいですね。それと、このあたりにお住いの方が、うちの近所には『いいパン屋さんがあるんだ』と自慢していただけるような店になりたいです」



先にご紹介した「龍の卵とジャージー牛乳のプリン・ア・ラ・モード」の他、パフェなどのデザート、カレーやハンバーグなどのフードメニューも充実。★



アルコールも用意。朝からお酒も飲めるそう。美味しいパンやお惣菜を「アテ」に、ワインやウィスキーでもいかがだろうか。大人ならではの、パンの楽しみ方だ。


-健康的であることも、『街の自慢』になる要素でしょうか?

「コンビニやスーパー、食パン専門店、いろんな場所に手軽な食べ物としてパンがあります。パンは海外の主食であり文化でしたが、日本だけのパンもあり日本の文化になっている。『少々、値段が高くても、子どもには身体にやさしい健康的なパンを食べさせたい』と思う方は、これからも増えていくと思います。そういった方に選んでいただける店になりたいですし、サスティナブルとして正しい食を提案していかなければなりません」




パンへの想いを熱く語る、唐渡シェフ。とても興味深いお話の数々、ありがとうございました。

<取材レポート>

美味しかった! 本文中にも記載した通り、使用している食材は、フレンチの名店『リュミエール』などと同じクオリティのもの。それがいわゆる「カフェ価格」で楽しめるのですから、コストパフォーマンスの面からも、卓越したブーランジェリーカフェなのではないでしょうか。
読者の皆様も、ぜひ、足をお運びいただき、本当に美味しくてヘルシーなパンの感動を体感してください。

(写真★は、パンカラト ブーランジェリーカフェさまご提供)

(2021年1月)

パンカラト ブーランジェリーカフェ
住所 大阪府大阪市中央区北浜1丁目9-8
電話 06-6575-7540
営業時間 8:00~22:00
定休日 無休(元旦のみ休業日)
アクセス 京阪本線 北浜駅下車 徒歩約2分
大阪メトロ堺筋線 北浜駅下車 徒歩約2分

“大都会の小さな森“にあるパン屋さん「ル・シュクレクール」

堂島の杜(もり)に囲まれている店舗

日本有数の歓楽街にして大人の街、北新地。その北新地をバックにそびえる新ダイビルの足元には、「堂島の杜(もり)」という緑豊かなオアシスがあり、オフィスビルの敷地内とは思えないような自然空間を創出しています。

青々と茂る木々、その間から聞こえる小鳥のさえずり・・・そんな大都会の小さな森に店を構える「ル・シュクレクール」は、いま、日本でもっとも人気のあるパン屋さんの1つです。

開店前のル・シュクレクール
「ル・シュクレクール」のオープンは11時ですが、開店の30分前には、既に店舗の前に行列ができています。“あの”ル・シュクレクールの焼き立てのパンを、と遠方から訪れるお客様も多いそうです。

焼き立てのパンをてきぱきとショーケースに並べていく店員さんたちの間から、「開店10分前です!」「5分前です!」とかけ声がかかり、11時のオープンと同時に販売されます。
ル・シュクレクールは、自らトングでパンを取るのでなく、ショーケースの中のパンを店員さんに取ってもらうため、どんなパンなのか、どう頂けば美味しいのかを聞くことができます。セルフスタイルのお店よりも、時間がかかるのかもしれませんが、お店の人とお客さんが対話することも、大切なことなのかもしれません。

『バトン・ブランシュ』『パテ・サンド』『プティ・デジュネ』・・・ル・シュクレクールのパンはすべてハード系のパン。菓子パンはありません。
「行列のできるパン屋さん」だけあって、大量に購入していかれる方が多くおられます。
イートインの場合は、パンを選ぶ際に、飲み物も一緒に注文します。緑溢れるテラス席は、植物の持つ生命力や瑞々しさが、食卓の風景を引き立て、食欲を増進させてくれます。

この日頂いたのは、『バトン・ブランシュ』『パテ・サンド』『プティ・デジュネ』そしてアイスカフェ・オ・レです。『パトン・ブランシュ』は、クルミやノワゼット(ヘーゼルナッツ)、カシューを蜂蜜入りの生地で繋いだ長いスティック状のパンで、2つにスライスして出てきます。
「レストランOGINO」のパテを使った『パテ・サンド』は、厚みのある豚肉のパテにピクルスやマスタードなどを挟んだシンプルな組み合わせなのに、「ハッ」とするほど美味で、白ワインが無性に恋しくなるお味。「朝食」という意味の『プティ・デジュネ』は、栄養価の高いシリアルとブルーベリーを練りこんだ生地に、クリームチーズをたっぷりいれたパン。濃厚なのにしつこくなく、甘酸っぱい風味は、おやつにもおすすめです。

開店当時、まだ珍しかったハード系のパンを展開。「お客さんに歩みよってる場合ではない。先を走ってお客さんに伝えていきたい。」
「ル・シュクレクール」という店の名前の、その意味を尋ねたところ、なんと、オーナー岩永さんの「読み間違い」が由来になったそう。パン作りの修行のためにパリに渡り、広げた地図の「サクレ・クール」(Sacré-Cœur)のところでちょうど折り目がついていて、「シュクレクール」(Sucré-Coeur)と勘違いし、それがそのまま、店名になったそうです。 日本に妻子を残して、フランスへ渡った岩永さんですが、睡眠時間を削って1年間仕事を掛け持ちして働き、稼いだお金を生活費として置いてきての渡航は、相当覚悟が要ったことでしょう。「帰国した時は、吸収してきたことを全部出し切ろうって心に決めていました。」と、当時を振り返ります。

帰国後「ブーランジュリ― ル・シュクレクール」をオープンしたのが、2004年のこと。岩永さんの地元である吹田市・岸部の店舗にて「本場フランスの味」を追及したパンを作り、多くの人が「ル・シュクレクール」のパンを買いに来るようになりました。やがて岸部のお店が手狭になった頃、この地に巡り合い、「ル・シュクレクール」の北新地店をオープン。

パン屋さんだけど、醤油が並ぶ店内。パン屋さんが街のスピーカーとなって、「本当にいいもの」を伝承していきます。
「正直なところ、特にこのあたりがいいとか特に考えてなかった。でも、一目で気にいりました。“縁”(えん)ですね。」
オープン前は、「お店の前をゆったりと流れる堂島川を眺めたりできるのかな~」と思ったものの、いまのところなかなかその時間が取れないのだそう。

「ル・シュクレクール」の店舗の一角に、選りすぐりの醤油やピクルスを置いてみたり、農産物や加工食品を店舗で販売する「北新地 GREEN Market」を開催したり、生産者や料理人が集まって“食を通して未来を考える”「いただきますプロジェクト」に参加したりと、岩永さんは、パン作り以外にも「食」に関する様々な活動や取組みをされています。

「パン以外でもよかったのかもしれない。でも、レストランでなくパン屋さんのほうが、より多くの人に、食の本質を伝えることができますから。」

ル・シュクレクールは、単なるパンの製造・販売元なのではなく、そんな岩永さんの、熱い想いの発信拠点なのです。

※・・・メニュー・価格は、2017年6月現在のものです。
店名
Le Sucré-Coeur(ル・シュクレクール)
住所
530-0004 大阪府大阪市北区堂島浜1丁目2-1 新ダイビル1F
TEL
06-6147-7779
大阪市北区堂島浜1丁目2-1 新ダイビル1F