日本有数の歓楽街にして大人の街、北新地。その北新地をバックにそびえる新ダイビルの足元には、「堂島の杜(もり)」という緑豊かなオアシスがあり、オフィスビルの敷地内とは思えないような自然空間を創出しています。
青々と茂る木々、その間から聞こえる小鳥のさえずり・・・そんな大都会の小さな森に店を構える「ル・シュクレクール」は、いま、日本でもっとも人気のあるパン屋さんの1つです。
焼き立てのパンをてきぱきとショーケースに並べていく店員さんたちの間から、「開店10分前です!」「5分前です!」とかけ声がかかり、11時のオープンと同時に販売されます。
ル・シュクレクールは、自らトングでパンを取るのでなく、ショーケースの中のパンを店員さんに取ってもらうため、どんなパンなのか、どう頂けば美味しいのかを聞くことができます。セルフスタイルのお店よりも、時間がかかるのかもしれませんが、お店の人とお客さんが対話することも、大切なことなのかもしれません。
イートインの場合は、パンを選ぶ際に、飲み物も一緒に注文します。緑溢れるテラス席は、植物の持つ生命力や瑞々しさが、食卓の風景を引き立て、食欲を増進させてくれます。
この日頂いたのは、『バトン・ブランシュ』『パテ・サンド』『プティ・デジュネ』そしてアイスカフェ・オ・レです。『パトン・ブランシュ』は、クルミやノワゼット(ヘーゼルナッツ)、カシューを蜂蜜入りの生地で繋いだ長いスティック状のパンで、2つにスライスして出てきます。
「レストランOGINO」のパテを使った『パテ・サンド』は、厚みのある豚肉のパテにピクルスやマスタードなどを挟んだシンプルな組み合わせなのに、「ハッ」とするほど美味で、白ワインが無性に恋しくなるお味。「朝食」という意味の『プティ・デジュネ』は、栄養価の高いシリアルとブルーベリーを練りこんだ生地に、クリームチーズをたっぷりいれたパン。濃厚なのにしつこくなく、甘酸っぱい風味は、おやつにもおすすめです。
帰国後「ブーランジュリ― ル・シュクレクール」をオープンしたのが、2004年のこと。岩永さんの地元である吹田市・岸部の店舗にて「本場フランスの味」を追及したパンを作り、多くの人が「ル・シュクレクール」のパンを買いに来るようになりました。やがて岸部のお店が手狭になった頃、この地に巡り合い、「ル・シュクレクール」の北新地店をオープン。
オープン前は、「お店の前をゆったりと流れる堂島川を眺めたりできるのかな~」と思ったものの、いまのところなかなかその時間が取れないのだそう。
「ル・シュクレクール」の店舗の一角に、選りすぐりの醤油やピクルスを置いてみたり、農産物や加工食品を店舗で販売する「北新地 GREEN Market」を開催したり、生産者や料理人が集まって“食を通して未来を考える”「いただきますプロジェクト」に参加したりと、岩永さんは、パン作り以外にも「食」に関する様々な活動や取組みをされています。
「パン以外でもよかったのかもしれない。でも、レストランでなくパン屋さんのほうが、より多くの人に、食の本質を伝えることができますから。」
ル・シュクレクールは、単なるパンの製造・販売元なのではなく、そんな岩永さんの、熱い想いの発信拠点なのです。