「川に浮かぶ小さなおうち」というキャッチフレーズの個性的な形状の船で、ゆったりとくつろげるクルーズに、週末ともなれば多くの人々がかけつけています。
この「御舟かもめ」の人気のヒミツを探るため、オーナー船長である中野さんにお話をうかがいました。
(トップの写真および★マークは、御舟かもめ提供)
■公園に行く気分で、気軽に川の上で過ごすには、どうすればいい?
-「川に浮かぶ小さなおうち」というキャッチフレーズが、すごくステキに思えます。
「船は、少し乗っただけでかなりの旅行気分が味わえます。大阪は川が身近にあるのだから、カフェや公園に行く気分でのんびり楽しんで欲しいと思っています。もともとは、自分が住んでいる大阪で、自分が一番気持ちのいい過ごし方をするには、どうしたらいいんだろうというところから始まっているんです」
-そんな中野さんの想いが、ユニークな船のカタチにも表れているようですが。
「妻と二人で、オランダやイギリスに行っていろんな船を見たり、琵琶湖や瀬戸内海でいい船がないか探したりしました。最終的に熊本で真珠の養殖に使われていたこの船が、自分たちのイメージに一番近いと思い、改装して使うことに決めました」
-他の小型船より、幅が広いようですね。
「和船というジャンルになり、船底がフラットなんです。一般的な船の底はV字のものが多いと思います。これは妻(オーナー船長中野さんの奥さまであり、かもめの船長でもある、かおりさん)と、船の上で足をなげ出すことができて、何ならお昼寝できる船がいいねと決めたものです。
それと『小さなおうち』というコンセプトなので、船大工さんではなく、敢えて住宅の設計士さんや大工さんに改装をお願いしました。それが他の船と比べ個性的に見える理由かもしれません」
-「御舟かもめ」という名称にも、そんな中野さんのお気持ちが込められているようです。
「『御舟』というのは、『御宿』のような雰囲気を出すために名乗っています。カモメは、カムチャッカ半島から越冬のために日本にやってきます。カモメにとっては、ちょうど私たちが冬に南国、ハワイにバカンスに行くのと同じですよね。だから大阪にいるんだけれどもバカンスに来ている気持ちになれるんじゃないかと思い、『かもめ』と名付けました」
-船には「KAMOME」ではなく、「CAMOME」と描いてありますね?
「ロゴを作ったデザイナーさんが『K』よりも『C』の方が、丸くてかわいくなると勧めてくださって。全体的なバランスもよくて、『CAMOME』にしています」
■妻に背中を押され、テレビディレクターから船長に転職
-中野さんが、クルーズ業を始められた経緯などをお教えください。
「私が生まれ育った場所は三重県桑名市、木曽三川が身近にあり、もともと川が好きだったのだと思います。大学で都市計画や環境デザインを学んでおり、ちょうど『水都大阪』という言葉がではじめで、私も注目していました」
-では、そもそもお仕事も河川関係だったのでしょうか?
「いえ、大学の卒業後はテレビ局のディレクターになりました(笑)。勤務先が大阪市内で、水辺がいいなと思い川の近くに住むことにしました。そして、そのマンションの1階上に、妻が引っ越してきたのです。
妻は当時、建築設計事務所に勤めていてリノベーションのコーディネートなどをしていましたが、そのかたわら『水辺のまち再生プロジェクト』にも参加していました」
-奥さまが、そもそも水辺の再生に関わっておられたのですね。
「はい。大阪市の水辺を再生させるという狙いもあり、当時、小さな船を使ってクルーズを行う人が、結構たくさんいました。実は妻も休日などに、4人乗りのボートを使いクルーズを行っていました」
-先に奥さまが始められたわけですか!
「結婚後も続けていました。ただ、やはり女性一人ではなかなか大変で…。台風が来たら夜でも船を見に行かなくてはならないことなどもあって、妻も『もう、やめようかな…』といっていたわけです。
でも川って楽しいし気持ちいいし、自分にとってもすごく重要な場所になっていて、『こんなにくつろげる、小さな船がなくなるのはもったいないし、悲しい』と思い、結局、放送局を辞めて自分でやろうと思ったわけです。ちょうど2009年で、『水都大阪2009』で盛り上がっていたところでもありました」
-NHKをお辞めになってクルーズ業に転職とは、奥さまの反応は?
「反対されると思っていました。それが『小型船で食べていけるかやってみたい』といったので『やる気のある人がやるのが一番! ぜひやって』と背中を押されました(笑)」
そうやってご夫妻二人で川に漕ぎだしたクルーズ業でしたが、大変な時期もあったそうです。
■苦しい時期も、異なる発想を持つ夫婦二人で乗り切ってきた。
-2009年の開業以来、13年。いろんなことがあったと思います。
「2009年は『水都大阪』という大イベントもありましたし、『さぁ、これからだ!』という機運もありましたね。私も一緒に盛り上げて、大阪を面白くしていこうと思いました。
その後、インバウンドのブームがありましたが、うちは当時でも外国のお客さまは1割程度でした。もちろん多くのお客さまが来てくださるのはありがたいことですが、大阪の人自身が中之島で楽しめるんだ、美しい橋がいっぱいあるんだということを知らないまま、コロナ禍まで来てしまったような気がします」
-新型コロナウイルスの影響は、いかがだったのでしょうか?
「『御舟かもめ』は、桜、花見のシーズンで年間の1/3程の売り上げがあります。でもあの時は、満杯だった予約があっという間にキャンセルされて、結局、3ヶ月ぐらい休業せざるを得なくなり真っ青になりました。
ただその期間中は、よい意味でも悪い意味でも、振り返る時間が持てましたね。まだコロナは終息していませんが、これで足腰が鍛えられたように思います」
-仕事のパートナーでもある奥さまも、大変だったのでは?
「妻とは同じ方向を見ながらやってきて、意見が分かれることは少なかったですが、私とは少しタイプが違うので、それが夫婦の面白さと強さになっていると感じています。私が思いもつかないようなアイデアを出してきて『えっ~!』と思うこともありますが、それだからこそ打破できることもあるんじゃないかな。それで乗り切ってきました。
それと何か決めることがある時は、外で会議するようにしています。
私たちの仕事は、お客さまに気持ちよくなってもらうのが目的なので、自分たちも気持ちのいい場所で打ち合わせするのがいいかなと思って」
-コロナといえば、街中よりも川の上の方がオープンで安心に思えます。
「やっと、外に出られるようになった、でも街中はちょっと混んでいるので、川遊びでもするか、という方が乗りに来てくださっています。『コロナが少しでも収まってきたら、かもめに乗ろうと思っていた』というお客さまもいて、そんなお言葉を聞くとすごくうれしかったですね」
■実は中之島が、最も「大阪らしい」場所ではないかと思う。
-中野さんにとって中之島や大川は、どのような存在なのでしょうか。
「私たちは川辺のスポットの説明をしながら操船しています。ある時、中之島を説明している時に、『大阪らしからぬ、きれいでオシャレな場所』といったんです。大阪というと、やはりコテコテの印象ですから。
すると高齢のお客さまから、『何をいっているの、こっちが本当の大阪なのよ!』といわれ、そういえばそうだなぁ…と(笑)」
-こっちが本当の大阪!?
「その方は昔、川沿いのダイビルで働いておられたそうで、当時はそれがステータスだった、ちょっと自慢だった、と。コテコテの大阪もいいですが、いろんな船が行き来し、大阪商人が中之島や船場、堂島で商売をやっていた時の活気などを思うと、陸に居る者が、もっと川を意識する必要があると思いますね。川から見る中之島はとても美しいです。陸から見るのとは、また違う顔の中之島を感じることができます」
-もっと川で過ごす楽しさに気づいて欲しいですよね。
「まだまだ川で遊ぶってことは、浸透していないと思います。でも『御舟かもめ』を始めた当時は、川べりにはまだブルーシートが被せてあり、夜も暗くて本当に『裏側』という感じでした。それがこの10年で『表』になりつつあるかな…。お店ができて、散歩道も整備されて夜も明るくなってきたかなぁという状況です。
次は、その護岸の柵から、こちら(川の上)に出てきて欲しいですね。『御舟かもめ』は、そのための入り口になりたいです」
-「御舟かもめ」を、これからどのように育てていきたいでしょうか。
「四季折々、楽しんでいただけるようにしたいですね。夏は日よけ、冬はこたつを置いてお待ちしています。思い立った時に来ていただける場所になりたいですね。私のおすすめは、新緑の季節。花が散ってぐっと芽吹いてくる頃、新芽の色と迫力は本当に素晴らしいです」
-最後に、中之島スタイルの読者にメッセージを。
「コロナがひと段落して、アウトドアでのんびり過ごすという価値を、みんなが改めて感じておられるのではないかと思います。私たちも、のんびりすることの値打ちを高めるようにしたいと思っています。
名所を巡らなくてもいい、船の上で、水の上で、ただゆっくりするだけで本当に気持ちいいのです。無駄な時間を過ごす贅沢を『御舟かもめ』で感じていただけたら。そして、私たちもマイペースで続けられたらと思います」
御舟かもめ | |
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乗り場 | 八軒家浜 船着き場など |
電話 | 06-7175-4200 |
営業時間 |
●貸し切りクルーズ 8:20発~20:20発のご希望の時間(不定休) ●乗り合いクルーズ 8:20~20:20まで7便設定(土日祝のみ) |
定休日 | 不定休 |
アクセス |
八軒家浜 〇京阪本線天満橋駅 徒歩すぐ 〇地下鉄谷町線天満橋駅 徒歩5分 |
ホームページ | https://www.ofune-camome.net/ |