※文章中にある(年号)は、各建物が建てられた年を(和暦/西暦)で表しています
今日の散策は北浜駅からスタート。北船場を南北に貫く堺筋はかつて、洋風建築の百貨店や銀行などが立ち並ぶ大阪一の目抜き通りとして栄えた通りでした。その堺筋と土佐堀通りが交差する難波橋南詰そばに佇んでいるのが北浜レトロ (明治45/1912年)。このレンガ造りの洋館は、純英国式ティールーム「北浜レトロ」として、今や全国からファンが集まる人気店となっています。
ここから堺筋を南下すると出会えるのが、新井ビル(大正11/1922年)や青山ビル(大正10年/1921年)などの大大阪時代のレトロビル。新井ビルには洋菓子店「五感」、青山ビルは喫茶店「丸福珈琲店」と、いずれも建築当時の雰囲気そのままに美しくリノベーションされ、界隈に新たな息吹をもたらしています。
今回の散策では土佐堀通りを西に進み、栴檀木橋を渡って中之島に入ることにしました。橋の向こうには大阪市中央公会堂が見えました。この方向から橋を眺めるたびにうっとりしてしまう私。なぜなら、歩道のタイルや街灯が公会堂と見事にマッチしてロマンティックな雰囲気たっぷりだからです。公会堂は正面も二枚目ですが、横顔もかなり美形ですよ。
そして、その公会堂の隣に建っているのが中之島図書館(明治37/1904年)。昨秋、 ブックスポットを訪ねる散策で見学させてもらいました。中之島図書館の正面は、威風堂々たる雰囲気。クリスマスの風物詩「光のルネサンス」では、壁面がまるごと光のスクリーンとなる「ウォールタペストリー」として華麗に魅せてくれる建物でもあります。
図書館や大阪市役所を右に眺めながら、みおつくしプロムナードを通って御堂筋に出ると見えてくるのが、日銀こと日本銀行大阪支店(明治36/1903年)です。設計したのは、赤レンガが特徴的な東京駅の設計者として知られる辰野金吾氏。明治36年に建てられたということですから、翌37年に建てられた中之島図書館とほぼ同級生ですね。御堂筋に面した旧館は現在、展示室などになっており、その奥に実務を行う新館があります。(建物内部の写真は、日本銀行大阪支店から了解を受け、同店HPより転載しています)
日銀は、ベルギーの国立銀行をモデルに建てられた本格的なヨーロッパ建築。ドーム屋根と石造りの壁がかもし出す荘厳な美しさは、息をのむほどです。玄関ポーチをよく見てみると、角柱と円柱が混在していました。柱の上部は重厚な装飾が施されたイオニア式柱頭飾り。これらは、17~18世紀にかけてヨーロッパで広まったバロック様式と呼ぶそうです。そういえば、中之島図書館の旧本館は、ギリシア神殿のような力強い円柱を使用したネオバロック様式。このような洋風建築が相次いで建てられたことからも、中之島や船場エリアが近代大阪の中心として繁栄していたことが伝わってきます。
嬉しいことに、日銀は事前申し込みすれば、無料で見学することができます(見学についての詳細は記事の最後をご参照ください)。もちろん私も見学させてもらいました。ここでは大阪支店の業務内容や資料室を見学できるのですが、ミーハーな私にとって印象的だったのはやっぱり記念室。昔の貴賓室だったところを、旧館建設当時の材料を再使用しながら復元しているそうです。外観で見たドーム屋根の真下に当たるので、天井も高め。ステンドグラスも美しく、華やかなネオ・ルネサンス様式の特徴を残しています。
それからもう一箇所、見逃せないのが階段室。こちらも、歴史的史料保存のため、昔の階段と正面玄関を旧館建設当時の部材を再使用しながら復元したとか。この階段、なんと柱を1本も使わずに作られているそうです!
資料室には、40億円(もちろん模擬券)を梱包した十束封もありました。あら・・・40億円って思ったよりボリュームないかも? でも重さは相当。人力では運べないので、運搬時は“びしゃもん”という名前の専用機を使うそうです。ほかにも、大量の古くなった紙幣を細かく裁断されたものが見られて、なかなか貴重な体験となりました。
さて、ここでいったん中之島を離れ、淀屋橋をわたって淀屋橋odonaを右手に見ながら少し西へ向かいます。目指すは大阪倶楽部(大正13/1924年)。 大阪財界人が集う、最も古い英国風社交場です。大人の社交場というイメージそのままに、黒塗りのタクシーが次々乗り付け、パナマ帽をかぶったハイカラな紳士が出入りしています。建物はスパニッシュ様式にオリエンタルな雰囲気が加わった独特のデザイン。どこを見ても興味深かったのですが、特に窓の格子と壁のデザインが気に入りました。それにしても、淀屋橋周辺で一番新しい商業ビルのすぐ近くに、こんな粋な場所があったとは・・・。
今度は四ツ橋筋に出て北上します。土佐堀川沿いに建つ山内ビル(昭和5年/1930年)は、コンパクトながら存在感のあるスパニッシュ風建築。現在はオシャレな飲食店が入居しています。
肥後橋をわたって再び中之島へ。ここで忘れてはいけないのが大阪朝日ビル(昭和6/1931年)。昭和モダニズムを代表する建物です。柔らかなアール(曲線)が美しいこのビルの外装は、当時最先端の素材、ステンレス。晴れた日に反射して輝くさまは、新聞事業という当時最先端のメディアの勢いを象徴していたのかもしれません。
堂島ホテルを西に曲がり、いよいよ最後の目的地、中央電気倶楽部(昭和5/1930年)に到着しました。ここも大阪倶楽部と同様、会員制の社交場で、2008年11月に創立95周年を迎えるそうです。建物をふと見上げると、バルコニー部分に飾り壷を発見! 外観のスクラッチタイルの壁面やレリーフも上品です。一歩中に入ると、先ほどの喧騒が嘘のようなシックで落ち着いた空間で、大大阪の時代にタイムスリップしてしまったかのよう。ひと筆書きのように“らせん”を描いた階段もユニークでした。
季節の風景に溶け込みつつ、どこかノスタルジックな雰囲気で訪れる人を和ませてくれるレトロ建築。今日見てきたのは、ほんの一部。中之島近辺には素敵な建物がまだまだたくさんあります。建物はもちろん、ふだん何気なく渡っている橋も、実は近代建築のひとつです。この秋は、みなさんもレトロ建築散歩にお出かけしませんか?
申し込み先 :日本銀行大阪支店営業課 (06-6206-7748)